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レビュー

村上春樹、角田光代、山白朝子らが紡ぐ人生の冒険。日常を打破する原動力が得られる『運命の恋』

カドブンレビュー


 「運命の恋」という言葉の響きに魅せられて、思わず、本書を手に取ってしまった。世界には、74億人もの人が生きているが、その中で、出会うことのできる人はほんの一握りしかいない。ましてや、自分が恋に落ちる人は一生のうち、どれだけいるのだろうか。

 『運命の恋 恋愛小説傑作アンソロジー』は、村上春樹、角田光代、山白朝子、中島京子、池上永一、唯川恵という名だたる作家達が紡いだそれぞれ味の異なる短編を「運命」「恋」というテーマで束ねた贅沢な作品集である。

 村上春樹の「四月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」は私自身、数え切れないくらい読んだほど好きな短編であるし、中島京子の「おさななじみ」の会話調の表現が生み出す感情の動きには、胸がジーンとした。ただ、今回それ以上に、角田光代の「誕生日休暇」が深く心に残った。規則正しくも、繰り返しの毎日を送っていた独身女性が、会社の設けた「誕生日休暇」によって非日常体験をするという物語である。同僚の余計な気配りで、ハワイへ一人旅することになった彼女は、そこで「明日結婚予定の男」と出会う。その男が語る「運命の恋」について、耳を傾けているうちに、自身が実は大きな変化を求めていたことに気づく。

 人生で実行できるはずの体験は可能性としては無限にある。でも、実際には同じことを繰り返している瞬間が多く、新しい体験は得がたい。そして、時は瞬く間に過ぎ、可能性はどんどん消え去っていく。ときに、「運命」を感じるような特別な出来事が起こって、人生を冒険してみたい、という衝動に駆られることはないだろうか。74億分の1の特別な人と出会って、恋に落ちて、新しい自分を発見したいと思うことはないだろうか。本書で描かれる「運命の恋」の数々は、そんな私たちの願望を叶えてくれる。そして、読んだ後にも残る興奮が「運命の恋」の予感と共に、日常を打破する原動力になる。それこそ、本書に出会ったことが「運命」と思えるくらいに。


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